これはWorld IA Day Fukuoka 2020で実施したワークショップのイベント・レポート編です。ワークショップの理論編もあわせてご覧ください。
World IA Day
World IA Day は2012年に始まった情報アーキテクチャ(IA)のグローバル・イベントです。2020年は ‘The IA Element’ (情報アーキテクチャの要素)というグローバル・テーマで、2月22日土曜日に世界中61都市でイベントが開催されました。
一例として、 World IA Day Toronto 2020 の様子を伝えるツイートをご紹介しましょう:
https://twitter.com/ruxia68/status/1231243516744880128
Summer Z on Twitter
“IA is missing from UX and Product.” I also noticed this is common in most of the workplaces, ppl only talk about visual designs until 1 true UX or IA person come to separate the structure. UX designers plz learn it🤓
(訳:「UXやプロダクトの分野からIA(情報アーキテクチャ)が失われている」 これは多くの職場で散見される。真のUXかIAの人がやって来て構造を切り分けるまで、人々はしきりにビジュアル・デザインの話ばかりしている。UXデザイナーの人にはぜひ学んでほしい)
このように、世界中のIA(情報アーキテクチャ)コミュニティで、様々なメッセージが発信されています。Twitterのグローバル・ハッシュタグ #WIAD2020 と #TheIAElement を見れば、その様子が感じられるでしょう。
World IA Day Fukuoka
World IA Day の福岡支部 World IA Day Fukuoka を立ち上げ、 World IA Day Fukuoka 2020 を開催しました。
グローバル・テーマ ‘The IA Element’ を受けて、ローカル・テーマを ‘Information Alchemist’ (情報錬金術師)としました:
私たちは様々な情報を集めてきては、分解したり、結合したりする。それによって、より高い価値を持つ情報を生み出す。
イベント当日はYouTube Live中継を行いました。その録画は6時間に及びます。それを編集して2時間45分に短縮した動画をYouTubeで公開しています:
公式Twitterアカウントは @WIAD_Fukuoka、ローカル・ハッシュタグは #WIAD_Fukuoka です。イベント当日のツイートを見ることができます。
ここからは、イベントの内容を具体的に紹介していきます。
基調講演
冒頭の基調講演は大橋正司さんにお願いしました。このイベントを企画しているタイミングで、ちょうど大橋さんの「日本の美術館サイトはどうすればもっと良くなるか」という文章が話題になっていました。その文章を私なりに要約しておきます:
これまでウェブサイトは美術館の広報機能の一端として捉えられてきた。そのようにウェブサイトの機能が矮小化されてきたことには、ウェブサイト制作を受注してきた私たちウェブ業界側の責任もある。私たちは美術館界のデザイン投資を活かすことができなかった。この状況から脱するには、「美術館というサービスをデジタル技術を使って定義し直すこと」に取り組まなければならない。そのために必要なのは「ミュージアムのデジタル・トランスフォーメーション(DX)戦略を実行できる業務知識を持ったウェブ人材」である。もし今後、美術館のウェブ機能を強化しようと本当に思うのであれば、サービスデザインができる人材が普段から歩み寄る他はない。
これを踏まえた大橋さんの基調講演 ‘Elements of Imagination’ (講演スライド)は、建築家磯崎新氏のテキストを引用しつつ、来るべき「第四世代の美術館」の可能性を探究する内容でした。
(※引用注:「第四世代の美術館」は)これまで美術館に接続できなかった人たちへの福音でもあるべきです。これまでの美術館をふくむ公共空間が、どれだけ限られた人のためのものであったかを考える必要があります。子連れのお子さん、障害者、様々な予期せぬディサビリティを持つ瞬間、あるいは外国の方、多様なアクティビティに、今の美術館は耐えられるでしょうか。
(※引用注:「美術館はあらゆるところに偏在する」 ‘GLAM Anywhere’ というコンセプトの説明として)
- 様々な場に出ていき、リアルとデジタルが融合した世界での人々の営みを多面的に支援すること。
- 情報の真正(信頼性)と民間では保証しきれない情報の多様性を継続的に担保すること
- 多様な意見を安全に表明し続ける場を保証すること
これらのはてに、私達の新しいアウラが生み出されていくのです。それこそが新しい美術館の可能性です。
また、イベントから約3週間後の3月15日、Artscapeに大橋さんの「ミュージアム・ロストが起動させた“第四世代の美術館”:デジタルアーカイブスタディ」という文章が掲載されました。基調講演の内容と重なりつつ、より掘り下げた内容になっています。「美術館を『センター(中心)』から解き放つ」と題した節では、 World IA Day Fukuoka 2020 のワークショップにも通じることが論じられています。この記事と基調講演の内容を合わせて、私なりに短く要約しておきます:
多様なユーザー、多様な利用場所、多様な利用状況、多様な利用目的に向けて、美術館のコンテンツやサービスを開いていく必要がある。そのためには、デジタル技術を使って、サービスやコンテンツのアクセシビリティを極力高めなければならない。また、多様で自由なアートの空間が、無秩序に陥ることなく、自生的な秩序を自ら作り出しつつ健全に発展するためには、信頼できる情報センターが必要になる。来るべき「第四世代の美術館」は、そのように自由なアートの空間を可能にするプラットフォームになる。
このような「第四世代の美術館」のコンセプトを基調として、今回のワークショップは実施されました。
ワークショップ
多様な利用者による様々な美術館利用をすべて肯定できるようなインクルーシブ(包摂的)なサービスのあり方を考えてもらいたいと思いました。そのような狙いでカード・ゲーム型の発想ワークショップを設計しました。
当初はカード・デッキを用いて福岡アジア美術館で開催する予定でした。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される状況となり、急遽オンラインでの開催に切り替えました(もともと現地会場とオンラインの両方でワークショップを実施するつもりではありました)。オンライン会議システムのZoomとオンライン・ホワイトボードのMiroを用いたオンライン版を用意しました。
ワークショップの概要はガイダンスの映像(1:06:16)をご覧頂くのが分かりやすいかと思いますが、簡単に説明しておきましょう。「以下の5種類のカードを組み合わせて、美術館のサービスを利用するストーリーを作ってください」というワークです。カードは「条件」「主体」「活動」「対象」「価値」の5種類に分かれています。好きなカードを選んで組み合わせてもいいし、ランダムに引いたカードを組み合わせてもいい、というものです。参加者には「最終成果物の優劣を競うのではなく、各自で有益な気付きを持ち帰って頂くことが目的です」とお伝えしました。
ワークショップのツールキットを公開しておきますので、自由にご利用ください:
- ワークショップ進行用スライド(Googleスライド)
- カード・デッキ(オンライン・ホワイトボードMiro用テンプレート)
- カード・デッキ印刷用データ(表)WIADミュージアム・ワークショップ
- カード・デッキ印刷用データ(裏)WIADミュージアム・ワークショップ
ワークショップの途中で、大橋さんが東京富士美術館から提供して頂いた資料を紹介して下さいました。作品や展覧会のデータベースは、情報アーキテクチャの観点から興味深いものでした。その様子は動画(1:28:13)でご覧頂けます。
ワークショップの最終的な成果物(Miroホワイトボード)は下記の通りです:
なお、口頭発表(中間報告2回と成果報告の計3回)の様子も動画でご覧頂けます。
イベントを通してネットワークやソフトウェアのトラブルにも見舞われましたが、なんとか無事にやり遂げることができました。参加者やボランティア・スタッフの皆様のご協力のおかげです。いいワークショップになったのではないかと思います。 World IA Day Fukuoka は来年以降も開催していきたいと考えています。どうぞお楽しみに。
ワークショップの理論編もあわせてご覧ください。
[更新:2021-02-09]金沢美術工芸大学でワークショップを実施しました