私はGMOベンチャーパートナーズというベンチャーキャピタルの「デザインフェロー」を務めています。この「ベンチャーキャピタルのデザインフェロー」という仕事を紹介するため、下記のトピックについて書きました:
- 果たす役割
- 立場の利点
- 仕事の醍醐味
執筆の動機
「ベンチャーキャピタルのデザインフェロー」という仕事は、未だ「職業」として確立していません。この仕事に就いている人は、おそらく日本にまだ数人しかいないでしょう。 1 そこで、この文章によって、
- この「職業」の認知が高まり、
- この「職業」の人を雇うベンチャーキャピタルが増え、
- この「職業」に就く人が増えること
を期待しています。
ベンチャーキャピタルのデザインフェローが果たす役割
ベンチャーキャピタルのデザインフェローとしての私の役割は、「スタートアップ向けのデザインコンサルティング」です。より詳しく説明すると、下記の領域に関するコンサルティングです:
- デザイン思考
- 事業コンセプト
- サービスデザイン
- 人間中心設計(ヒューマンセンタードデザイン)
- デザインリサーチ
- ユーザーエクスペリエンス
- ユーザビリティ
- インフォメーションアーキテクチャ
- ユーザーインターフェイス
- アクセシビリティ
こういった領域について、
- 問題解決策の提供(狭義のコンサルティング)
- 創造的な共同作業(ワークショップ)
- やり方の指導
- 実行段階での「伴走」(コーチング)
といった形での支援をしています。
とくによく用いる手法が「ワークショップ」です。私は頻繁にワークショップをファシリテート(企画・運営)しています。その狙いとして、
- 一人だけで考えるのではなく、対話を通じて考えること
- 社内の数人だけで考えるのではなく、多様なステークホルダーを巻き込んで考えること
- 頭の中だけで考えるのではなく、手を動かして考えること
などが挙げられます。
スタートアップは「イノベーション」という未解決の課題に取り組んでいます。私自身も「解」は持っていません。ですから、「問題解決策を提供する」こと(狭義の「コンサルティング」)ができない場合も多々あります。そこで、私自身もクライアントと一緒に考えるためにワークショップを多用しています。
ベンチャーキャピタルのデザインフェローという立場の利点
ベンチャーキャピタルのデザインフェローという立場には大きな利点があります。私がやっていることは「スタートアップ向けのデザインコンサルティング」ですが、この仕事は、この立場でなければ手がけにくい仕事だと実感しています。
ほとんどのスタートアップは、デザイン思考やユーザーエクスペリエンスに関する最新の手法を導入していません。それでいて、イノベーションという未解決課題に取り組んでいるのがスタートアップです。つまり、「スタートアップ向けのデザインコンサルティング」には大きな可能性が秘められています。
しかし、その実現を妨げる経済的制約もあります。次のような事柄です:
- スタートアップにとってユーザーエクスペリエンスの専門家を社員として雇用するのは困難です。数少ない専門家を大企業と取り合う採用競争の厳しさや、それゆえの賃金水準の高さなどが理由です。
- 既存社員のスキルアップに期待するのも、あまり現実的ではないでしょう。スタートアップの社員は業務に忙殺されがちで、学習に必要な時間を確保できるかどうか。 2
- 社外の専門家にデザインコンサルティングを依頼するとしても、高額なコンサルティング報酬を支払う経営判断が容易ではないでしょう。プロフェッショナルサービスは本質的に「購入前に効果を目にすることができない」ものです。買い手にしてみれば「価値が不確実」であって、いわば「ギャンブル」のようなものでもあります。
このような経済的制約のため、「スタートアップ向けのデザインコンサルティング」というサービスは通常ほとんど実現しません。
一方、ベンチャーキャピタルのデザインフェローは、原則としてスタートアップからコンサルティング報酬を受け取りません。その代わり、ベンチャーキャピタルの「投資先支援予算」から報酬を受け取ります。ベンチャーキャピタルが費用を肩代わりしているわけです。この仕組みによって前述の経済的制約がクリアされ、「スタートアップ向けのデザインコンサルティング」というサービスが実現するのです。この仕組みは素晴らしいと思います。

ベンチャーキャピタルのデザインフェローという仕事の醍醐味
私はベンチャーキャピタルのデザインフェローという仕事に大きなやりがいを感じています。そこには、
- 大きなイノベーションに取り組む面白さ
- モチベーションの高いチームとのコラボレーション
- コラボレーションの成果が速やかに実現されるスピード感
- 事業の成長に貢献できる喜び
- チームの成長に貢献できる喜び
があります。
私は他にもいくつかの働き方を経験してきました。大企業向けコンサルティング、受託開発、自社サービス開発など。ベンチャーキャピタルのデザインフェローという仕事には、それらとは異なる固有の魅力があります。「人に教えることが好き」で、「一緒に作ることも好き」な人に向いている仕事だと思います。
おわりに
冒頭で述べたとおり、「ベンチャーキャピタルのデザインフェロー」という仕事について、
- 認知が高まり、
- 雇うベンチャーキャピタルが増え、
- 従事する人が増え、
- 「職業」として成立していくこと
を期待しています。それによって日本の起業家生態系(エコシステム)が一層発展すると信じています。
なお、この文章はUX Tokyo Advent Calendar 2014への寄稿でもあります。「デザインの意味論的転回」という思想的背景で書かれました。この文章が、「デザイン」固有の領域に関する言論(デザイン言論)の再活性化に僅かなりとも貢献することを願って。
参考図書
- 奥出 直人、デザイン思考の道具箱: イノベーションを生む会社のつくり方、2014年(初版2007年)
- 棚橋 弘季、ひらめきを計画的に生み出す デザイン思考の仕事術、2009年
https://hideishi.com/blog/2015/08/03/consulting-for-startups.html
アーキテクトが起業家やベンチャー企業のためにできること
https://hideishi.com/blog/2020/10/14/philosophy-for-startup.html